三尸(サンシー)

中国の道教によれば、人の身体には頭、内臓、下半身に一匹ずつの蟲(三尸)が住んでいるという。この蟲どもは普段から、身体の中で悪さをして病気の原因になったりしているのだが、それだけでなく、庚申の日の夜には身体を出て天に昇り、その宿主の悪い行いを天帝に告げ口しに行くのである。

庚申(こうしん)の日

甲、乙、丙、丁…の十干と、子、丑、寅、卯…の十二支の組み合わせを日付にあてはめたもので、60日に一度巡ってくる庚申(カノエサル)にあたる日。この日に三尸からの報告を聞いた天帝は、その軽重に応じて、宿主の寿命を減らしてしまうのだ。

こいつらが三尸だ!

三尸図
  1. 上尸。胡散臭い中国人に見えるが、蟲である。
  2. 中尸。この出来損ないの狛犬みたいなのも、実は蟲である。
  3. 下尸。なにかいろいろ足りてない気がするが、同情は禁物だ。こいつも悪い蟲なのである。

庚申講

体内にいる三尸を殺してしまえれば問題は解決するが、それには五穀断ちなどの、厳しい修行が必要である。ならば、庚申の日の夜は一晩中起きていて、三尸が身体から出て行かないよう見張っていればいいではないか。ということで始まったのが庚申講である。 庚申講は平安時代に中国から伝わり、江戸時代に各地で隆盛を極めた民俗信仰で、庚申待ち、守庚申とも言う。一晩中起きていて何をするのかは、特に決まっておらず、各地の伝統に従って行われていたようだ。ただ、今でも全国いたるところに「庚申塔」、「庚申塚」と呼ばれる石塔や社(やしろ)が残っており、かつての人々がこの周辺に集って飲み食いし、語り明かしたのだろうと推察される。

禁忌(タブー)

このように、細かい儀式などほとんどない庚申講ではあるが、いくつかの守るべき禁忌があった。まず同衾を忌むこと。つまり性交を行ってはいけないということだ。もしこの夜に子供ができると、その子は盗人や不具になるといわれた。また、庚申は陰陽五行説でいうと「金(ごん)」の属性があることから、金属を身につけることもいけないとされた。