第十回 2004.12.27 配信



ニッポンの夜明けは、近いでしょうか。





蟲話10 「サルを()ぐもの」


◆ もうひとつのモチーフ

庚申講には、いろんなところで「サル」が出てくる。 というおはなしを、前回の蟲話「サルが()ぐもの」 でお伝えしました。

ちょうどその蟲話を書いているとき、ぼくは うちの祭壇に祀られている掛け軸を眺めていて、ふと、 サルの下に二羽のニワトリが描かれているのに気づきました。

はてさて、ではニワトリは、 庚申講とどんなつながりがあるんだろう?


◆ 一つめの、もっともな理由

その一つめの答えは、調べるとわりと簡単に出てきました。 前回の蟲話にも出てきた、青面金剛という庚申の神さま、 この神使(お稲荷さんにとっての狐みたいなもの)が、 実はニワトリだったようなのです。

前回の蟲話で、青面金剛は山王権現から 神使のサルを引き継いだ、と述べましたが、 つまりニワトリは主人が出世したさい、 一番の家来の座を、サルに奪われていたのですね。

とはいっても、ニワトリも一応、古参の家来ではあるので、 青面金剛のいるところには、ちょこっと下のほうに 描かれているというわけです。


◆ 二つめの、もっともっともな理由

そんな"神さまがわの都合"みたいな理由のほかに、 もっと実際の庚申講に即した説も見つけました。

庚申講は基本的には、夜通し起きている行事ですが、 ある地域ではその終わりが、「ニワトリが鳴くまで」 と規定されていたのです。

ならばその地域の人々にとってニワトリの鳴き声は、 眠くてつらい庚申講の終わりを告げ、 人々を日常に戻してくれる、ひとつの区切りのような存在。 だからこそ下部にニワトリが現れてくるのだろう、 と、その説は述べています。

ほう、つまり当時の人々は ニワトリの絵を見つつ、ニワトリを待ち望んだというわけか。


◆ そして三つめの、もっとももっともらしい(?)理由

それら二つの説を「なるほど」と思い、 ぼくは今いちど、掛け軸を眺めました。 と、そのとき、 もうひとつの理由がぼくの頭に浮かんだのです。

「あ、干支もだ」

そう、 子丑寅卯…の十二支の順番でも、 サル(申)の次にはニワトリ(酉)が来るのです。 あら、不思議。


◆ サルを()ぐもの

てなわけで、どの説が正しいとか、 そういう話はひとまず措くと、ニワトリは
・青面金剛の家来としてサルの下におり、
・庚「申」講の終わりを告げてくれるものであり、
・干支の順番でもサルの次にくるものである
となります。

普段目立たない下っ端ながら、 しっかり庚申講の幕を引き、 その後を担っていく、ニワトリ。 だとすればやはり、 ニワトリはサルを継ぐ大切な存在なんだ。

ううむ、サルだけじゃなく、 ニワトリもまた、あなどりがたし。




申の年である2004年も、あと4日ほどで終わりですね。 なにかと先行きが見え難い今日この頃ですが、 来年こそはサルを継いだニワトリが、 ニッポンの夜明けを告げてくれる、 と、ぼくはそんな期待をしているのです。

それではみなさま、よいお年を。
次の満月は、年明け一月二五日です。







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