こんばんは。
満月の日の夕方配信される東京庚申堂の読み物、
四回目の今日は、かたいけれどもなんだかゆるい、
庚申信仰のお話です。
蟲話04 「庚申だもの・上」
◆ お堂の祭壇
東京庚申堂の祭壇には、複数の宗教が祀られています。
むかって右側には、青面金剛という密教の神さま。
むかって左側には、猿田彦という神道の神さま。
そしてそのあいだ、祭壇中央の壁には
蟲という字が組み込まれたオリジナルの陰陽マーク。
はじめてお堂に来た人は祭壇の前で
かしわ手を打ったものやら、
むにゃむにゃなにかを唱えたものやら、
どうにもわからなくて、途方にくれてしまうようです。
でも、これはぼくが面白がって勝手にいろいろ
くっつけたから、ではありません。
そもそも庚申講自体が、道教、神道、仏教など、
さまざまな宗教とかかわって発展してきたという
経緯をあらわしています。
◆ 庚申のいろんな神さま
庚申講には、いろんな神さまを信仰対象とする
バリエーションがあります。
庚申講のそもそものルーツは、いつもお話しているように道教。
だから神さまは例の、人々の寿命を決める「司命神」になります。
でも、よく考えると庚申講は「神さまに悪事を隠す」ための徹夜。
騙そうとしている神さまが、信仰の対象にはなりにくいですよね。
拝んでいるまさにそのとき、神のお使いを身体に閉じ込めておこうと
いうのだから、バレたら二倍のばちがあたりそうです。
よって日本に伝わってきた平安時代には、とくになにを拝むのでもなく、
たんに生活習慣として庚申講が行われていました。
ところが後の世になると、だんだん庚申にバリエーションが
うまれ、さまざまな神さまが信仰の対象となります。
仏教系の青面金剛童子、神道の猿田彦大神をメジャーどころとして、
ほかに山王権現、釈迦、大日如来、帝釈天、地蔵菩薩、観音、
不動明王など、地域や時代によってさまざまな「庚申さん」
が祀られています。
そしてもちろん、どこにも属さない「庚申さん」として、
オリジナルの神さまを祀っているところも多くあります。
そういう場合、どんなものが礼拝対象になるかというと、
掛け軸や石塔に書かれた「庚申」という文字なんですね。
◆ 庚申講のいろんなご利益
神さまがいろいろなら、ご利益はもっといろいろ。
もともとの長寿延命の要素は時代とともに薄らいで、他に
豊作、大漁、商売繁盛、治病、悪魔退治、火難水難除け、
厄除け、出世、安産、盗難除け、和合、良縁、道案内…
と、ほとんどなんでもあり、のバリエーション。
まるでご利益の総合商社ですが、これは
その時代にその地域で必要とされていたご利益
(農村での豊作、花柳界での良縁など)が、
"みんなの神さま"である庚申さんに
組み込まれていった結果だと考えられます。
◆ ということで、東京庚申堂
とまあ、とにかく庚申さんは時代や場所が違えば
神さまもご利益もいろいろ。
だったら東京庚申堂も、新しいかたちの信仰を
提示したっていいじゃないか。
そんなふうに考えた結果、というわけではないですが、
東京庚申堂のご神体は、ダイエーで買った「虫取り網」です。
もちろん、このご神体は身体から抜け出し天に昇ろうとする
三尸を捕らえる、ぼくらの守り神の象徴。
庚申堂の創立からずっと、祭壇中央、
陰陽マークの前に鎮座しています。
あと、ご利益として本来の長寿延命にくわえ、
「素敵な異性をキャッチする」ということで恋愛成就、
「大切なお客様を逃さない」ということで商売繁盛を
うたっています。
そしてさらに、「天網恢恢祖にしてもらさず」ということで、
"他人の"悪事にばちをあててもらうご利益も、
いま思いついたので追加しました。
どうですみなさん、一度お参りに来てみては?
え?どうにもこじつけっぽいって?
「悪事にばち」だと、庚申の教えに矛盾してるって?
かたいことは云わないの。
信じるものはすくわれる、のです。
ゆるくたってぬるくたっていいじゃないか。
だってそれこそが、庚申なんだもの。
■
ご神体のダイエーでのお値段はたしか、60円。
これは世界的にみても、拾った石、みたいな、
タダで手に入るものは別にして、
「教団本部にあるご神体として、最も安価な礼拝対象」
になるかもしれない。
そんなことを考えて、現在東京庚申堂はこのご神体を、
ギネスブックに申請中です。
先月に続き、今夜も天気がよく、綺麗な月がみえそうですよ。
次の満月は、八月一日です。
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